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不毛な金融刺激策が、イギリスでもユーロ圏でも、盛大に実施されてきた


イングランド銀行の総資産の対GDP比率を見ると、2008年9月初頭にいたってもGDPの40%未満にとどまっていたイングランド銀行の総資産は、10月で激増に転じ、10月中にGDPの160%という驚異的な数字に達しました。ただ、イングランド銀行の場合、このすさまじい規模の金融刺激がほとんど実体経済の活性化につながらないことを悟って、その後はほぼ横ばいに保っています。

一方、欧州中央銀行(ECB)初期の総資産拡大ペースは鈍かったのですが、現在に至るも延々と総資産を拡大し続けています。そんなことをしても、金融市場に投機的なブームを起こすことはできますが、実体経済の刺激には結びつかないことを、いまだに悟っていないのがECBと日銀です。

そして、量的緩和政策の実用化以前から中央銀行の主要な制作ツールだった金利を見ても、同じように早くから動いたイングランド銀行は、自ら打ち出した政策の不毛性を速めに悟りましたが、後追いをしたECBは歯止めのきかない猪突猛進ぶりを見せています。

こうした金融政策の「成果」として、イギリスとユーロ圏諸国のGDP成長率は高まったのでしょうか。イングランド銀行とECBの政策金利の推移を示すグラフを見ると、イングランド銀行は2008年末から2009年初めにかけて、政策金利を一挙に5.0%から0.5%に引き下げましたが、その後はまったく動きませんでした。

一方、欧州中銀は、4%から小刻みでダラダラした金利の上げ下げの果てに、今年に入ってからはマイナス金利まで利下げを続けています。しかし、実体経済を刺激することはまったくできていません。4~5%の金利を0.5%まで下げても動かなかった企業の設備投資や個人家計の消費が、0.5%からマイナス0.1%にすれば動くだろうというのは、純然たる妄想に過ぎないのです。

イギリスのGDP成長率は2014年半ばのピークから下がっているのでイングランド銀行の金利政策は失敗、ユーロ圏のGDP成長率はじりじり上げ続けているから成功と思いこみがちになります。

しかし、イギリスは3.0%程度の天井から2.0%まで下がったところで底打ちしそうだということがわかります。一方、ユーロ圏のGDPは、2013年第1四半期はマイナス成長で、その後3年もかけてやっと2.0%成長にたどり着けたという状態です。国民にとってどちらがマシな経済化は言うまでもないでしょう。

EUを構成する諸国の国民に、「EU自体が成功だったか」という質問に対する答えを集計したものを見ると、ギリシャの肯定的な回答が37%から27%に下がったことや、イタリアでは68%から58%まで下がったことには、なんの不思議はありません。しかし、まだ国家債務危機が表面化していないフランスで、肯定的な回答が69%から38%へと、ほぼ半減している。これはそうとう深刻な数字です。

EUに関する賛否がどの程度、実体経済がうまく行っているかどうかとの相関性を調べたグラフを見ると、潜在生産力より大幅に低い生産高しか達成できていない国は、EU圏に対する評価が低く、高い生産高を達成している国は、EU圏の評価が高くなる傾向が読みとれます。

つまり、EUは、加盟諸国の経済パフォーマンスがいいかぎりで許容されるが、経済環境が悪化すれば否定的に見られるという程度の組織なのです。

EUにせよ、ユーロ圏にせよ、国家の枠を超えた超国家に生き延びる道を見出そうとするヨーロッパ諸国の展望は暗く、アメリカの小型版を目指すイギリスの展望はさらに暗いようです。なぜ、ヨーロッパ諸国はなぜこんな袋小路に迷いこんでしまったのでしょうか。

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