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ヨーロッパ諸国へ向かう東欧経由と地中海経由の難民


ロシアとの国境検問所のストールスコーグは「徒歩では通過できないが、車両での通過はできるし、おまけに自転車は車両と見なされる」ので、ロシア経由でヨーロッパ諸国での難民申請を目指す人たちがロシア側からノルウェー側に自転車で通って行きます。

しかし、彼らは刑務所並みの監視のある難民収容所にほぼ直行させられます。ノルウェーの場合、スウェーデンのように人道とか、正義とか、社会福祉の行き届いた地上の楽園といった誇大宣伝はほとんどしていないだけマシと考えるべきなのでしょうか。実際には人口高齢化が問題だと考えている日欧諸国では、難民はもろ手を挙げて歓迎すべき存在なのです。

移民一般が働き盛りの年齢層に集中する傾向が顕著なのとは正反対に、難民は労働力年齢に達しない少年少女の比率が非常に高いようです。さらに、近年とくに女性と子どもの比率が高まっています。今後少子高齢化がどんどん進んでいく中での労働力人口の維持を深刻な問題と考える国にとって、難民は理想的な年齢・性別構成をもたらしてくれる天の恵みなのです。

私自身は、少子高齢化などまったく問題ではないと思っています。身の丈に合った経済の質的充実を追求しつづければ、量的拡大に頼らない経済成長は無限に維持できるからです。逆に、国境に検問所を設けて、アラブ系の人種的特徴を持った人たちや、「イスラム教を捨てられますか?」との問いに即座に「はい」と答えなかった人たちを追い返すようなお粗末な国なら、当然量的拡大に頼らない経済成長などおぼつかないでしょう。そういう国こそ、もっとも切実に難民のもたらす人口プロファイルの改善を必要としているのです。

スロベニアとクロアチアの国境を徒歩で行く難民の群れの画像を見ると、子どもを抱いたり、連れて歩いたりしている家族が多く、出稼ぎ労働者は圧倒的に労働力年齢の男性が多いのとは、対照的な光景です。

イスラム社会に筋金入りのテロリストを育てたければ、こうしてほとんど無防備で歩いている難民や、惨憺たる苦労の末に難民許可申請先の国にたどりついた難民たちに、執拗な嫌がらせや罵声を浴びせ、暴行、放火を行うことです。特に、幼い子供たちは、ヨーロッパ諸国に一生消えない恨みを抱いて育つことになるでしょう。

当初はドイツが難民歓迎の姿勢を示していたこともあり、自分たちの祖国を執拗に空爆しつづけるイギリスやフランスには意地でも行きたくないということもあり、中東からの難民は圧倒的な比率でトルコ・ギリシャ経由のドイツ行きを目指しました。

そして、1985年にシェンゲン協定を調印した諸国間では、国境を越えた人間の移動を阻止してはならない建前になっていました。しかし、実際にはヨーロッパ諸国には、かつてのソ連東欧圏や現在のイスラム圏からの難民に自由に国境を越えて動き回られることを許容するほどの度量はないようです。

さすがに「ヨーロッパ諸国の歴史は国境紛争の歴史」と言っても過言ではないほど、国境をめぐる紛争が日常茶飯事だったヨーロッパでは、一朝ことあると反応は速いようです。理想主義の極致とも言うべきシェンゲン協定が調印されてからわずか5年後の1990年には、ソ連東欧圏の解体で難民がなだれこむことを想定したダブリン協定が制定されました。

骨子は「いったんEU圏の中の1国に難民申請を認められた人々は、EU圏内のどこの国にも自由に行ける。だが、EU加盟の他国経由での難民を受け入れた国には、最初に難民申請を認めた国にその難民を送り返す権利がある」というものです。

ヨーロッパ諸国の建前の立派さと、内実の醜悪さの二面性を象徴するのが、シェンゲン・ダブリン2本立て協定です。また、ここにも「第二次大戦後のドイツはずっといい子だった」という議論が大ウソである証拠があります。ソ連東欧圏の崩壊以来、イタリアは受け入れた難民の総数こそ少ないですが、他国経由で来た難民もおおらかにほとんど受け入れています。しかし、ドイツは他国経由の難民をほとんど全員、最初の難民申請国へと送り返してきたのです。

そして今、本来国境沿いに塀をめぐらしたり、検問所を設置したりということはあり得ないはずのシェンゲン協定調印国間で、せっせと国境検問体制が強化されているようです。陸路を封鎖された難民たちは、海路を取ることになります。

こうした海路での難民申請は、人間の密輸ということになるから、運ばれる人間は人道的見地から上陸を許されたとしても、運ぶ側は犯罪者として処罰されます。それでは事業継続が不可能に近いから、たぶん「搬送先」国の沿岸警備隊が探知できる距離まで接近したら、船長以下の乗組員は乗客を放置したまま、ほかの船で逃げるのでしょう。

当然、この小さなボロ船にこれだけの人間を詰め込んでおいて、乗客ひとりひとりから法外な運賃を取ります。そこで「これら海路を選んだ難民は、運賃を支払うことのできる富裕層であり、そもそも難民申請も生命の危険よりは純粋に経済的な理由で行う連中が多い」といった批判をする向きもあります。

これだけの過剰な積み荷を運ぶボロ船がちょっとした故障でも起こせば、難破や転覆で命の危険にさらされる可能性も非常に高いでしょう。「富裕で、経済的理由だけで難民申請をする」人間が、こんなにスリルのありすぎる船旅を楽しむことはあり得ません。世の中には、「アラブ系の難民は悪い奴らだ」というパターン思考にはまってしまったとたんに、論理的な判断力も倫理観も鈍ってしまう人がいるようです。

一方、せっぱ詰まった難民の窮状を非常に政治的に利用する国もあります。ユーロ圏の中で、救いようのないお荷物という評価の固まってしまったギリシャは、国中に多くの難民収容所を設置して、抱えこんだ難民の多さをユーロ圏内での交渉を有利に進める材料にしようとしています。

もし、現在はギリシャ内各地の収容所にとどまっている難民たちが、そのままギリシャに居住することを許されて生産過程に参加できれば、おもしろい状況となるでしょう。ゴールドマン・サックスの全面的な支援も受けて、国を挙げての会計操作によってユーロ圏にもぐりこんだギリシャは、賃金上昇率がユーロ圏内でも突出して生産性向上率を上回っていた国です。

つまり、ギリシャの勤労者たちは、ユーロ圏に組み込まれて以来自分たちが生産に貢献した努力をはるかに上回る賃金を得てきたのです。難民がギリシャ国内で働くようになれば、高賃金に慣れきったギリシャ国民よりはるかに低賃金で、ギリシャ経済における生産性の向上、成長率の加速に貢献するかもしれません。

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