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最後に イギリスのEU離脱が示す人工国境大国崩壊の時代


企業実務者としても、世界中で民間需要が急収縮し、「いったいどこのだれが自社の製品やサービスを買ってくれるのか」と不安を感ずるような危機の中では毎年、前年度の実績プラスアルファを狙い、悪くても横ばいを目指す官僚同士の予算の分捕り合いは心強く感じるのでしょう。

しかし、世界が平穏無事に戻ると、前年度比微増から横ばいの範囲内という官僚の予算分捕り合戦の大枠は、束縛以外の何ものでもありません。意欲的な企業ほど閉塞感は強いのでしょう。

しかし、意欲的な企業もふくめて、この一見控えめな目標設定を大歓迎する業界があります。それが金融業です。金融業界の実務担当者たちは、たとえ自国の、あるいは世界の経済全体が徐々に拡大しているとしても、自分たちの属する業界の経済全体に占めるシェアが縮小に向かっていることは肌で実感しています。

経済全体にとって、金融業界が持つもっとも重要な機能は、意欲的な設備投資をしようとする企業になるべく好条件で資金が集まるようにすることです。

しかし、世界経済の中心が製造業からサービス業に移行するにつれて、特定の企業が成長するために設備投資の果たす役割は低下しています。金融業は、第三次産業に属しながらも、本来製造業などの第二次産業から、サービス業を中心とする第三次産業に世界経済の重心が移行するにつれて、規模を縮小していくべき産業なのです。

しかし、中央銀行という自分たちが政府に送りこんだ代表が通貨発行権の独占を許されていることによって、金融業界は政府の経済政策に深く食いこんでいます。そして、なんとかこの自分たちが経済に果たす役割の縮小という不可避の宿命を逆転しようと画策しようとします。

それが、世界中で推進されている量的緩和という名の金融機関から直接金融資産を買い上げるとともに、その代金としてカネをばら撒くという金融業界に対する過剰な保護政策の本質なのです。この量的緩和がいかにみごとに、金融業界のみを肥え太らせ、経済全体の活性化に失敗してきました。

アメリカのサブプライムローン・バブルと中国の資源浪費バブルという2重のバブルのおすそ分けで、2008年初頭まではフランスでさえも失業者数は減少を続けていました。しかし、2008年後半のサブプライムローン・バブルの崩壊、そして2011年の中国資源浪費バブルの崩壊によって、フランスはまたしても1990年代半ばまでのような失業者数が恒常的に増加を続ける国に戻ってしまったのです。

欧州中銀のドラギ総裁が「インフレ率を上昇させるために必要なことなら何でもやる」と呼号し始めた2012年ごろから、両者のあいだにもののみごとな逆相関が生じています。つまり、失業者が増えれば増えるほど、株価は上がっていたのです。

これが量的緩和政策の実態なのです。つまり、国民経済全体から富を搾り取って金融市場参加者にばら撒くということです。アメリカや日本では、一応失業率が下がりながら、株価が上昇してきたように見えます。

それは、ヨーロッパ諸国に比べて非正規就労者の実質時給が正規就労者の時給に比べてあまりにも低いことを利用して、年々低下する総労働時間を従来より大勢の非正規労働者に分配して短時間ずつ働かせて、少ない実質賃金でこき使って収得した企業利益を金融業界が搾取しているだけのことです。

一方、広いEU圏の中での役割分担として、いまだに製造業比率の比較的高い国民経済運営を許されてきたドイツは、堅実な実質賃金上昇をともなうGDP成長を達成できていました。しかし、そのドイツでさえ、国内製造業大手の大多数のメインバンクとなっているドイツ銀行は設備投資需要を持つ企業に対する融資だけでは預金を遣いきれずに、デリバティブという丁半バクチに手を出して自滅しかけています。

これがEU圏・ユーロ圏は解体されざるを得ない最大の理由です。そしてまた、これが世界中で金融業の役割は縮小するにもかかわらず、中央銀行という金融業界の利益代表を通じて、むしろますます金融業が肥大化している世界経済全体も、そう遠くない将来爆縮に転じさせる理由ともなっています。

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