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ヨーロッパ大手銀行の株価の低迷ぶり


ECB(欧州中央銀行)の量的緩和によって資金を得た銀行各行に対する「融資拡大の有無」に関するアンケート調査の結果を見ると、個人世帯への住宅ローンについては9割以上が「ほとんど増やしていない」と回答し、企業融資についても9割近くが「ほとんど増やしていない」と回答しています。企業融資については、そもそも過剰資本の存在が経済活動を抑圧しているのだから、非金融業に対する融資を拡大しないのは正しい方針なのです。

しかし、銀行は量的緩和で得た資金を何らかの運用をしなければ、預金に対する金利を払えなくなります。だから、海外投融資であるとか、不動産投資であるとか、ジャンクボンドやハイイールド債の保有であるとかの危険の大きな運用で、利払い原資をかき集めてきました。

今年の年初来2ヵ月は、世界中の金融業界にとってきびしい時期でした。しかし、特に惨憺たる状態に陥っていたのが、世界を股にかけて活躍している大手投資銀行の株価です。アメリカの大手投資銀行5行、スイスの最大手2行、イギリスの大手1行、日本最大の証券会社1社、そしてドイツ最大の銀行1行が軒並み2~4割の時価総額減少に見舞われています。

時価総額の減少がひときわ大きいのが、約43%のクレディ・スイスと40%弱のドイツ銀行です。2008年のリーマンショックから脱して以来の先進諸国の経済・金融環境をふり返ってみると、実体経済はあまり回復していませんが、金融資産の値上がりが順調で、大手金融業者の収益増が目立っていました。それだけに、今年に入ってからの大手投資銀行の株価不振は、2015年までとは様変わりという印象を持ってしまいます。

投資銀行の株価が急落した最大の理由は、金融市場の乱調で大手金融業者の収益下落懸念が高まったことでしょう。そして、中国の資源浪費バブルが完全に崩壊し、原油を先頭に市況商品価格が全面安となっている現状を見ても、この懸念が現実のものとなる可能性は、そうとう高いでしょう。そこにはほかの要因もからんでいると推測できます。

金融株低迷の一因は、主として産油国の巨額の対外債権を運用するソブリン・ウェルス・ファンドの株式運用で、金融株の占める比率が非常に高いことではないでしょうか。湾岸産油国(アブダビ・クウェート・カタール)の株式ポートフォリオの3分の1が金融株となっています。また、北海油田をイギリスと共有するノルウェーは23%強を金融株で運用しています。

原油価格の暴落によって、これら諸国の財政はかなり苦しくなっていることがよく知られています。だとすれば、資金繰りに困った産油国SWFが金融株を売るかもしれません。株式市場で重要なのは、ほんとうに産油国のSWFが金融株を売っているかどうより、「それなら自分が持っている金融株を早めに売っておこう」とか「金融株をカラ売りすれば儲けるチャンスがある」と考える市場参加者がいるかどうかなのです。

そして、全般的に不調だった今年年初の株式市場の中でも金融株のパフォーマンスがとりわけ悪かったという事実は、おそらくこうした事情を知っていて、金融株の売り崩しを行った市場参加者が多かったことを示唆しています。

当然のことながら、株価で見ても時価総額で見ても、ドイツ銀行は今年年初来の急落ぶりが目立つ大手銀行の筆頭格となっています。

株価の年初来2月上旬までの下落率で、ドイツ銀行の39.2%はクレディ・スイスの43.2%を僅差で追う2位となっていました。また、時価総額減少率は、英米の大手銀行も調査対象としていますが、こちらでも35.24%下落したドイツ銀行は、39.20%下落したウニクレディトに次ぐ2位となっています。

また、同じく今年年初来2月上旬までの有形資産総額に対する時価総額の比率では、ドイツ銀行は有形資産の約36~37%の株価で取引されていました。国際大手金融機関中でドイツ銀行がもっとも割安だったことになり、次に割安だったシティグループの約60%にかなりの大差をつけていました。ただし、1.2倍強のJPモルガン、約1.1倍のUBS以外はほとんどの国際大手金融機関が1株当たり有形資産額を割りこむ水準で取引されていました。

つまり、銀行業界全体として株価は不振ですが、その中でもドイツ銀行に対する金融業界の評価はとりわけ厳しいようです。有形資産総額の4割未満のカネを出せば発行済み株式を全部取得できるということは、それだけの割引にふさわしい巨額損失の発生は不可避と市場が読んでいるわけです。

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