第5章までで、短期目標を決めることができました。
次の段階ではそれを達成するために、何をどのように学習するか、目標が達成できたかどうかはどうやって確認するか、目標達成の期限はいつにするかということを考えなくてはいけませんが、その前に、課題達成能力を上げるためにはどうすればいいかということを考えておきましょう。
一般的に言って、課題達成能力を上げるには、知識を増やすか、練習を繰り返して慣れるか、どちらかの方法があります。ここでは、課題達成能力はどんな知識やスキルからできているか、新しい知識を自分のものにするにはどうしたらいいか、練習を繰り返して慣れるためには何が大切かを説明します。
課題達成能力を構成するもの
第3章で紹介したヨーロッパ言語共通参照枠では、課題達成能力は言葉でのコミュニケーションに関する能力と一般的な能力とで構成されていると考えています。一般的な能力というのは少し意外かもしれませんが、私たちが言葉を使って何かをする時は言葉の能力だけを使っているのではなく、それ以外の能力も使っています。
例えば、テレビのニュースは、そのニュースの背景を知っていると理解するのが簡単になります。BS1で放送されている外国語のニュースは、そのニュースを聞く前に日本語で同じことが報道されている新聞やテレビのニュースを見て、誰がどこで何をしてどうなったかを頭に入れておくと、理解しやすくなります。以下にあるのは、課題達成能力をあげるのに役に立つ一般的能力の主なものです。
・世界中どこでも通用する知識
地球は丸いとか、人間は酸素がないと生きていけないとかいう類の知識です。
・社会文化に固有の知識
あなたが学んでいる○○語を使っている外国人たちの、毎日の生活習慣、人間関係の作り方、社会的慣行、ボディランゲージなどに関する知識です。
・実践的スキル
あなたが、毎日の生活や仕事、余暇の中で使うスキル、料理の腕、人に物を売る能力などあなたにできることすべてです。
・異文化への意識
あなたの文化と○○語を使っている外国人たちの文化の差、それぞれの文化の中での多様性、それぞれのコミュニティが他からどう見えているのかなどについての知識です。
・異文化接触のスキル
あなたの文化と○○語を使っている外国人たちの文化を接触させる能力、両文化の仲立ちとなれる能力、ステレオタイプ的関係を克服できる能力などです。
あなたの課題達成能力は、この一般的能力と言語コミュニケーション能力の融合であると考えてください。ということは、一般的能力と言語コミュニケーション能力のどちらかの能力が上がれば、課題達成能力はあがるということです。
つまり、課題達成能力を上げるためには、必ずしも言葉の勉強をするだけが方法ではないということです。一般的能力を上げることで、課題達成能力を上げることもできるようになり、学習計画を立てる時には、この選択肢も考慮してみてください。
次に、言葉を使ったコミュニケーションに関する能力ですが、この中で、皆さんがまず思いつくのは単語と文法かもしれません。確かに、単語や決まり文句の知識は即戦力になります。特にビギナー（自己評価表で言うならA1とA2）と中級後半から上級者（同じくB2とC1）の場合、単語や決まり文句のレパートリーを増やすことができることの幅をかなり広げることができます。
文法は今日何かを覚えたら明日すぐに効果が出るというものではないかもしれませんが、複雑な内容を伝えようと思ったら、必ず必要になる知識です。しかし、言葉を使って何かをするためには、他にも必要な知識があります。現在、外国語教育では、言語コミュニケーション能力は以下のような能力から構成されると考えるのが一般的です。
言語能力
・語彙、文法、意味、音韻、正書法、文字を音にする能力
・社会言語能力
・社会的な関係を示す言語的な手段（挨拶、呼び方、誰がいつ話すか、感嘆詞）
・ていねいさを表現する慣行
・ことわざなど生活の知恵の表現
・TPOによる言葉遣いの違い
・地域差、階級差、出身国、民族、職業による言葉の違い
言語運用能力
・談話（会話や文章を組み立てていく力）
・機能（謝るとか頼むとか、言葉で何かをしようと思ったら何をどんな順番で言えばいいか）
困った時に切り抜ける能力
例えば、自分が知らない言葉を聞いたら、文脈から意味を推測するとか、相手に意味を尋ねるとかできる能力
皆さんが学校で習ったのは、主に言語能力に関する知識でした。しかし言語コミュニケーション能力は、社会言語能力、言語運用能力、困った時に切り抜ける能力を上げることでも、上げることができます。あなたの立てた目標を達成するための学習計画を立てる時には、これらの能力を上げることも選択肢の一つとして考慮してみてください。
