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なぜユーロ・EU圏は没落する運命なのか?


EU圏が深刻な危機に直面していることは、EU圏全体の大手銀行株で構成された株価指数で、去年の10月に140を超えていたものが、直近では90を割りこむところまで大暴落した後、なんとか92まで回復しました。

個別銘柄であれば、この程度のスイングは珍しいことではないですが、これはEU圏の時価総額も高く、流動性の大きな銀行銘柄を選んで構成された株価指数なのです。あれやこれやの銘柄ではなく、EUの金融市場そのものが危機に瀕していることがわかります。

アメリカの投資銀行2社、具体的にはゴールドマン・サックスとBoAメリルリンチの株価と、ドイツ最大の総合銀行ドイツ銀行と、スイスで2番目に大きな総合銀行クレディ・スイスの株価を、約2年前の2014年7月を起点に比較すると、ここでもまた、ドイツ銀行とクレディ・スイスの値下がり率がほぼ同一で、ゴールドマン・サックス、メリルリンチよりはるかに大きいことは、問題は個別の銀行にではなく、ヨーロッパ全体にあることを示唆しています。

今年年初来7月初めまでの英独西伊4ヵ国を代表する銀行4行の時価総額推移を見ると、イタリアのウニクレディト銀行がマイナス61%、ドイツのドイツ銀行がマイナス45%、イギリスのバークレイズ銀行がマイナス38%というすさまじい下落ぶりなのに比べて、スペインのサンタンデールは、半年強でマイナス25%と、比較的小さな下落にとどめています。

今年に入ってからの動きもさることながら、注目すべきは今年最初の営業日でのこれら4行の時価総額です。ユーロ圏ソブリン危機が始まった2010年~2011年あたりから、一本やりの株式運用をする人たちのなかにはヨーロッパの銀行業界には当分買い材料はないだろうと、投資レーダーからはずしてしまっていた人もいるらしいのです。

そういう人たちは、サンタンデール銀行だけが約650億ユーロと突出していて、ドイツ銀行もウニクレディト銀行も約300億ユーロ、バークレイズ銀行がかろうじて380億ポンド(約452億ユーロ)と大きな格差がついていたことにびっくりするでしょう。

スペインは今、政治情勢がかなり緊迫していて、すぐさま総選挙をやれば金融業界に批判的な政権が誕生する可能性が極めて高いと言われています。サンタンデール銀行はスペイン銀行業界でも比較的保守的で健全な経営で知られている銀行です。

しかし、それにしても銀行にとってかなりきびしい政権にいつ変わるかもしれないスペインの銀行のほうが、少なくとも大きな政変の可能性は低い、イギリス、ドイツ、イタリアの銀行よりこんなに時価総額が高くなっていたのです。

そして、今年7月初旬の段階では、サンタンデールの全株を売りつくせば、英独または英伊の2行を買えるほど時価総額格差が広がっています。独伊という第二次世界大戦での負け組2行を買えば、200億ユーロの余裕資金が手元に残ります。国境を越えた分散投資がリスクヘッジとしてほとんど機能しないほど、英独伊3ヵ国の銀行業界は病んでいるのです。

ユーロ圏銀行業界の不良債権の全債権に対する比率を周辺国(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペインからなる、いわゆるPIIGS)、ドイツ、そしてドイツをのぞく比較的健全なユーロ圏諸国に分けられています。

ドイツも、ドイツ以外の比較的問題の少ないユーロ圏諸国も不良債権比率はユーロ圏ソブリン危機の最中でも横ばいから微減にとどめていました。しかし、周辺諸国では2006年に約3%だったものが、2012年には約12%と4倍増していました。

中でもイタリア銀行業界の不良債権がとんでもない激増ぶりとなっています。2006年には400億ユーロ強にとどまっていたものが、2012年には1000億ユーロを突破し、今年の春には2000億ユーロ台に乗せていました。つまり、イタリアでは銀行業界の危機はごくふつうの不良債権比率の急上昇というかたちをとっているのです。

ただ、イタリア銀行業界が苦境に陥った道筋は平凡ですが、イタリアの経済全体はなかなか一筋縄ではいかない不思議さを備えています。

1992年から国際金融危機が勃発しかけていた2008年までのユーロ圏の勝ち組・負け組の経常収支の動きを見ると、勝ち組の経常黒字はどんどん拡大していたのに対して、負け組は1995年から2000年へ、そして2003年から2008年へという2つの波動で大きく経常赤字が広がっていました。しかし、黒字国、赤字国の国名を見ると、赤字国の中にイタリアが入っていないことに気づきます。

PIIGSからイタリアを抜いたPIGSとなります。ここにイタリアを入れると、かなり赤字幅が縮小され、ときには赤字が消えてしまうほどイタリアの経常収支は健全なのです。つまり、イタリアは国家財政も危ないし、民間金融も危機的ですが、金融をのぞく民間企業の国際経済に占める地位はほとんど劣化していなかったし、最近ではむしろ改善気味なのです。

イタリア抜きのPIGSの中でも、とくに経常赤字が深刻であり続けているのが、ギリシャです。国も大赤字なら、民間企業も対外収支で大赤字となっています。

ギリシャについては「ギリシャ政府や国民も、こんなに努力しているのに欧州中銀(ECB)や、IMF・世界銀行などの国際協調金融機関が無理な緊縮財政を押し付けているのが悪い」といった議論が盛んです。もうそろそろギリシャ国民に対する過酷な緊縮要求を控えるべきだという主張の根拠にされたりしています。

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