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ギリシャの公共事業就業者は、経済危機後だけでも30%も減少している


ギリシャで公共部門の支出に依存する就業者数は、2009年の約92万人から、2015年の約65万人へとほぼ30%も縮小しました。しかし、この縮小は労働力人口自体が約530万人から490万人へと減少した中での3割削減だったのです。

つまり、2009年には政府支出に依存する就業者が全労働力人口の17%もいましたが、2015年にはそれが13%に下がっていたということです。4パーセンテージポイントも下がったことを褒めるよりは、そもそも労働力人口の17%がもっぱら公的支出に依存して生計を立てていたことが過剰だったと見るべきでしょう。

失業すると次の職を探すことをあきらめて労働力人口から退出してしまう人が、ギリシャでは失業中人口の中で1~2%しか出てきません。2~3番目に低いスロバキア、リトアニアでも4~5%、4番目に低いキプロスが8~9%、5番目に低いハンガリーより上にある諸国はすべて10%超だから、ギリシャの労働力人口退出率の低さは突出しています。

おそらく、失業時の給付がまだまだ手厚いのでしょう。それはギリシャでは国民全体の所得のうち、賃金・給与への依存度より、政府からの給付への依存度のほうが高いという数値によっても裏打ちされています。

失業者中で職探しを断念して労働力人口から退出する人の比率がいちばん高いのが、37%に達したイタリアです。世界中どこでも職探しを断念した人には失業給付は出ないのがふつうだから、いったいどうやって生活していくのか気になるところです。

ひょっとすると、いまだに親類縁者や村落共同体的な組織による相互扶助の伝統が生きているのかもしれません。そして、そういうイタリアでは、国の財政も銀行業界の不良債権比率も惨憺たる数字になっていますが、金融を除く民間企業の国際競争力はあまり劣化していないのです。

とは言うものの、イタリア経済全体としてはこの「国も金融業もダメですが、金融以外の民間企業一般はあまり悪くない」という選択が決してコストの低いものではないことがわかります。

欧米主要国で2005年~2014年という9年間に実質所得がゼロないしマイナス成長だった就業者の比率を比較したグラフを見ると、イタリアではなんと97%になっています。これは「金融片肺飛行」化が進んでいるアメリカの81%、イギリス・オランダの70%よりはるかに高く、国民経済の成長を阻害する要因ごとに分解した数値を見ると、イタリアの就業人口の97%が実質所得ゼロないしマイナス成長というとんでもない数字は、経済格差が縮小する中で「達成」されたものだということがわかります。

特に重要なポイントは賃金・給与所得と資本所得のプラス/マイナスです。イタリアでは賃金・給与租特が4ポイントのプラスに対して、資本所得は1ポイントのマイナスとなっています。だから、国家による再配分給付は2ポイントのマイナスになっていても、国民全体の所得分布は平準化しているのです。ちなみに、ここで取り上げた6ヵ国の中で資本所得がマイナスとなっているのはイタリアだけで、あとの5ヵ国はゼロからプラスになっています。

金融肥大化の著しいアメリカ、イギリス、オランダでは、それぞれ賃金・給与所得が7~15ポイントのマイナス、これに対して資本所得が1~2ポイントのプラスとなっていて、市場経済の中では国民の経済格差はかなり広がっています。アメリカとイギリスは再配分が4~5%にとどまっているので、格差拡大に対する反発が激化していますが、オランダでは再配分を10ポイントにも高めることによってこの不満をなだめています。

こう見てくると、イタリアは成長の天井がかなり低い経済情勢の中で「乏しきを憂えず、等しからざるを憂える」という理想をかなり自然に、つまり国家による所得の再配分をともなわずに実現している国ではないかと思えてきます。

なお、もうひとつ注目すべき国がスウェーデンです。賃金・給与所得は10ポイントも増え、資本所得の伸びをゼロに抑えることによって、国家による再配分効果は5ポイントにとどめながら、2005~14年で実質所得が伸びなかった人の就業人口に占める比率をわずか20%にとどめるというすばらしい成果を達成しています。

この偉業のもとになっているのは、金融片肺飛行化がもっとも顕著なオランダの6ポイントより高い、7ポイントの総需要の伸びを達成したことでしょう。しかし、読者の皆さんはこの総需要の高い伸びのそのまた源泉がどこにあったかわかるでしょうか。

既成概念にとらわれていると、高福祉・高負担型の社会主義経済が成功したのだろうというような答えにたどり着きがちではないでしょう。しかし、事実は略正反対なのです。

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