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現金をECB銀行間優遇金利で回すよりはドイツ10年債の方が損は少ない


まず、現在のドイツ政府は1980年代末にはまだ西ドイツとして国債を発行していました。そのドイツが、1990年代初めには東ドイツという大変なお荷物を背負い込み、苦難の道をとぼとぼ歩きだしました。

この波乱万丈の1980年代末から現在に至るドイツ国債10年物の累計利回りを年率換算するとどの程度のパフォーマンスになるかというと、東西ドイツ統合前後の混乱期にごく短期間マイナスになったこともありましたが、その後はほぼ順調に長期保有の利点が前面に押し出された図式となっています。

累計利回りを年率換算すると6.9%で、比較がややこしくならないように1988年からユーロが存在していたと仮定すると、1988年に1万ユーロを投じてドイツ国債10年物を買っておくと、直近では6万ユーロになっていました。ずっとリスクが高い株をかなり巧妙に運用していても、これだけ長期にわたってこれだけの利益率を確保し続けるのは至難の業です。

そもそも金利収入を求めていない各国の中央銀行だけではなく、収益を追求している民間投資家までもがマイナス金利の債券を買うひとつの理由は、この30年弱の累計での素晴らしい運用実績です。特に、過去のチャートを金科玉条のように重視する投資家は、環境の激変などお構いなしで「昔からこういうパターンがくり返されてきたから、今度も同じパターンになる」という不思議な発想をします。

そういう人たちが忘れがちなのは、過去30年強の世界の債券市場は、1980年代初頭にインフレ退治と称して当時のアメリカFED議長ポール・ボルカーがでたらめな金利引き上げをくり返し、フェデラル・ファンド金利が19%を超え、アメリカ国債10年物の金利も15%を超えていたという事実です。つまり、世界の債券市場では30年以上にわたって金利が異常な高さ(価格としては異常な低さ)から出発して、延々30年を超えるブル相場が続いていたのです。

ドイツの場合、10年国債金利の大底は、東ドイツ吸収という大きな悪材料の出た1980年代末から90年代初めにずれ込みました。しかし、30年弱にわたって続いたブル相場という骨格は同じでした。

1989年~1990年には9%台にまで上がっていたドイツ国債10年物の金利は、その後小さな上下動をくり返しながらも、マイナス金利まで低下してきました。「もうこれ以上金利は下がりようがないから、債券ブル相場も終わりだろう」という大方の予想を裏切って、ドイツ国債市場も、世界の債券市場もマイナス金利に突入するかたちで長期化してきました。

しかし、「だから債券ブル相場は未来永劫にわたって続く」と思う人がいたら、精神状態をチェックしてもらうべきです。「マイナス金利はいくらでも深掘りできる」と言う黒田東彦日銀総裁などは、その筆頭格です。

すでにご紹介した30年弱の累計で年率6.9%の好実績というのは、「償還時の実効金利がどんどん低下するにもかかわらず」達成されたのではなく、高すぎた金利の低下による国債価格の上昇というキャピタルゲインと、金利収入の合わせ技があったからこそ達成されたのです。

発射台が地面すれすれとか、地面より低いとかの状態から、金利がさらに大幅に低下し、債券価格は上昇してキャピタルゲインがつくなどということはあり得ません。そして、民間投資家がマイナス金利の国債や社債を買うもうひとつの理由は、古典的な市場経済の法則、つまり需要と供給のバランスです。

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