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ユーロ全体のインフレからデフレへの落差はもっと大きい


イングランド銀行管轄下の金融市場で言えばLIBOR(ロンドン銀行間優遇金利)翌日物に当たるユーロ圏銀行間翌日物優遇金利は、すでに2013年からマイナスに転落し、直近では年利マイナス0.4%とかなり大幅なマイナス金利となっていたのです。

この事実自体で、現在ユーロ圏ではいかに事業拡大などのための資金需要が低迷しているかがわかります。すぐに投入できる余裕資金LIBORだけです。ならば、借り手は多いのに貸し手が少なければ、たとえ一晩借りるだけでも借り手が貸し手に金利を払うのは当然です。逆に貸し手はいっぱいいるのに借り手が少なければ、貸し手が借り手に保管手数料を払ってでも、貸したいときもあります。

そこまで安全を重視しなければ、高い金利で借りたがる企業はいくらでもあるでしょう。しかし、貸した瞬間にドロンして、行方知れずになる可能性がほんの少しでもある相手には、たとえ一晩でも巨額資金を預けるのは危険すぎるということで、各銀行がそれぞれにいつどんな借り手が現れてもすぐに現金を用立てられるようにと余裕資金を持つよりは、銀行間で需給に応じて何某かの金利をとりながら余裕資金を融通するのは合理的で、圧倒的の貸し手が多くて、借り手の少ない資金市場なら、その金利がマイナスになるのも自然な成り行きです。

そして、このユーロ圏間優遇金利との比較で見れば、各国国債や一流企業の社債金利は、そこまで大幅なマイナスではありません。だから、こっちのほうがマシだという選択は十分あり得ます。

ただし、30年とは言わなくとも、5~10年持ち続ける覚悟があれば、ドイツ国債10年物は、先ほど来指摘してきた6.9%に近い収益を上げられるでしょうが、1~2年の射程では非常に利回り変動性の高い危険な金融商品だということも明らかになっています。

30年弱で素晴らしい運用実績になるドイツ10年債が、たった1年程度持つだけでは、どんなに利回りの変動が激しいかは、運が良ければたった1年持っているだけで15~18%の利回りを稼げることもあることで明らかになりました。

しかし、逆に運が悪いときには、さすがにマイナス10%は1回だけですが、マイナス6%が2回、あとはマイナス4%、マイナス3%が1回ずつとなっています。だいたい5年持ち続ければまずマイナスはないだけではなく、超長期累計実績の6.9%に近い収益を上げられそうです。

しかし、1990年代初めからのドイツ債券相場が約25年におよぶ超長期ブル相場だったからこその話であって、ここまで金利が低下し、債券価格は上昇してしまってからの利回りは、10年、20年、30年と持ち続けても、キャピタルゲインがつくことはほとんどないと考えるべきです。

だとすれば、額面に対して何%の利回りが約束されているかで見るべきですが、それが最近のドイツ国債では、かなり償還期限の長いものまでマイナスになっているのです。こうして今、ヨーロッパ債券市場のプロの投資家たちは、個々の局面では一見合理性がありそうな判断を積み重ねながら、自分たちを追いこんでいることになります。

それにしても、欧州中銀の幹部たちは、いったい何を考えてここまで惨めな失敗が露呈している量的緩和政策=リフレ政策をゴリ押しし続けるのでしょうか?

一言で言えば、やみくもなデフレ恐怖なのでしょうが、国際金融危機勃発直前に3%台で大天井を付けたドイツの消費者物価指数年間変動率は、危機のまっただ中での一過性のマイナスをのぞけば、ほぼ一貫して下がり続け、直近では平時でマイナスという状況に至っていることがわかります。過去20年間の中央値が1.3~1.4%であることを考えると、最近2年半の若干のマイナスから、上がっても0.3%程度という状態はデフレ待ったなしです。

ユーロ圏全体で見ると、事態はもっと深刻です。ユーロ圏全体で見ると、過去20年間の中央値が1.9%程度なのに対して、直近の2年半ではマイナス0.5%からプラス0.3%という範囲内で推移しています。こちらはもう、デフレ待ったなしどころか、デフレ本番になっています。

つまり、現在の欧州中銀首脳はデフレという経済環境だけは何がなんでも避けなければならないという恐怖にかられているからこそ、失敗が歴然としているリフレ政策を総動員しているのです。そして、失敗の証拠は山ほど積まれているにもかかわらず、何ひとつ成功の兆しがないリフレ政策が成功していると言い張っているのです。

この必死のリフレ政策が失敗し続けることは、ユーロ圏インフレ率の推移とブレント原油価格を比較すると理解しやすいでしょう。全体としては、原油価格が高止まりしていれば、ユーロ圏内のインフレ率も2.5~3.0%の高水準で推移することもあります。

しかも、この2011年~2012年というのは、いわゆるギリシャショックというユーロ圏ソブリン危機のまっ最中でした。ただ、その後も2014年半ばまで原油価格のほうは高止まりしていたのに、ユーロ圏のインフレ率は慢性的な低下を始めていました。

そして、結局のところ、2016年の原油価格の反発は、2015年の反発高を試しに行くことさえできずに腰砕けしています。この現状を見ると、直近のプラス0.2%というインフレ率はほぼ上限で、ここから上がることはあり得ないでしょう。むしろ、次の原油価格の下げ波動が2016年2月のバレル当たり20ドル台半ばを超えた大暴落になれば、短期的な突っこみ安ではなくマイナスのインフレ率が定着します。つまり、ユーロ圏に正真正銘のデフレがやってくるということです。

それでもなお、欧州中銀の幹部連、EU官僚たち、そしてユーロ圏各国の国政レベルの政治家たちは、異口同音に「これからインフレ率が上昇する」という希望的観測を垂れ流し続けるでしょう。いったいなぜ、彼らはここまでやみくもなデフレ恐怖に駆られているのでしょうか。

有名な経済学者たちが、「デフレは怖い。デフレだけはなんとしても避けなければならない」と言うから、自分自身の考えなど頭の片隅にもなくオウム返しに「デフレは怖い」と言い続けているのでしょうか。

レベルの低い日本の政治家や官僚、経済学者ならその程度の知的水準でも十分務まります。しかし、欧米で一応は知的エリートと呼ばれる地位にのし上がるには、そこまで愚鈍では無理です。単に「みんながデフレは怖いと言っているから」というだけの理由で思考停止状態のまま、ウソ八百を並べ立ててでもリフレ政策は有効だと主張し続けるわけにはいきません。

結局のところ、彼らは国家、一流企業、大手金融機関、大富豪といった「いつでも、いくらでも、何回でも」カネを借りることができ、インフレで借金元本の返済負担が減少すればそれ自体で儲かる連中の丸抱えになっているようです。だからこそ、不可能な使命とは承知の上で、「何がなんでもデフレを避け、インフレを恒常化させる」という政策を続けざるを得ないのでしょう。

しかし、どう考えても無理な金融政策を強引に押しとおそうとすれば、欧州中銀はいずれ行政的な管轄権をふり回さなければならない境遇に身を置くことになります。EUの人工的な通貨発行権以外に何の権力の源泉も持ち合わせていない欧州中銀は、デフレが定着するこれからの世の中で、アメリカFEDや日銀より先に崩壊するでしょう。

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