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ドイツ銀行とイタリアの主要銀行の状況


異常な低金利という発行体には有利、国債・地方自治体債の購入者にとっては不利な状況の中で、ドイツの公共部門は非常に抑制の利いた国家財政を維持してきたことを示しています。問題は、こうしてヨーロッパ諸国ではもっとも健全な国民経済を守ってきたドイツが、国内最大手銀行の投機的な経営方針のために、すさまじい金額の救済によって国庫も国民の資産も削り取られてしまうのかということです。言い換えれば、国際的にシステミックに重要な金融機関を救うことに、それほど大きな価値があるのかと表現することもできます。

もちろん、世界中の金融機関ロビーは「もし1行でもシステミックに重要な銀行が潰れれば、世界の金融市場がたちまち機能マヒに陥り、通常の経済活動は営めなくなる」といった恐怖キャンペーンを続けるでしょう。

金融当局も、各国の財務相・大蔵省はともかく、中央銀行は完全にこのキャンペーンを支持する側に回っています。世界の大銀行破綻の歴史は、預金さえ保全できれば、どんなに大きな銀行の投資・投機部門が壊滅したとしても庶民生活にも中小零細企業の経営にもほとんど影響がないことを教えているのでしょう。

たしかに、1行でも巨大銀行が破綻すれば、いや破綻の可能性が高くなれば、銀行業界全体が危機に瀕することは明らかです。去年6月初めから今年1月末までの7カ月弱で、ユーロSTOXX600全体としては約14%の下落にとどめていましたが、同じ600銘柄中の銀行株で構成された指数は約30%と2倍を超える下落率でした。これは、実は当然の成り行きなのです。

銀行には、経済活動において果たす2つの重要な役割があります。1つ目は、零細な預金を低利で集めて、慎重な与信チェックをしながらも預金に支払う金利以上の利子が稼げる対象に貸し付けること。2つ目は、同じ預金のまた貸しをくり返して信用システムを通じた通貨創造を行い、中央銀行が供給するマネタリー・ベースを上回る貨幣流通量をつくり出すことです。

そして、銀行の利益が増える経済情勢だということは、こうした融資や通貨創造に対する経済全体の需要が高いことを意味します。実際にはどうなっているのでしょうか。今、先進国では銀行が集めた預金総額に匹敵する融資先を見出すことができず、慢性的に預貸率(預金に対する融資額の比率)が低下し、銀行は危険を承知でジャンクボンドや、ハイイールド債という婉曲な表現で呼ばれる高利回り債券で運用してかろうじて利益を確保したり、もっとリスクの高い投資を自ら行ったりしています。

つまり、銀行が経済において果たすべき本来の役割は縮小しているということです。しかも、その理由は短期的なものではなく、世界中の消費者たち、とくに先進諸国の消費者の需要がどんどん製商品からサービスに移っており、サービスの創造には商品の製造ほどの設備投資を必要としないという長期的かつ本質的な変化から来ているのです。

すでに、銀行が従来どおりの利幅を確保しようとすれば規模を縮小せざるを得ず、従来どおりの規模を維持しようとすれば利幅を圧縮しなければならない時代になっているわけです。その意味では、現在銀行業界が直面している苦境は決してユーロ圏だけのものではなく、少なくとも先進諸国に共通のもので、そう遠くない将来新興国も直面することなのです。

もちろん、同じユーロ圏の中でも、国民経済ごとに、銀行業界がどの程度の抵抗力を発揮できるかは違ってきます。銀行業界全体としてみると、イタリアのほうがドイツ以上にきびしい環境に置かれているようです。

イタリア銀行業界の株価指数は、2007年の国際金融危機直前の約130に対して、直近では20とわずか15%に激減しています。銀行業界全体としてはドイツよりイタリアのほうが苦境にあるという事実もまた、この銀行業界の難局は決して一過性の要因によるものではなく、世界経済全体で製造業への依存度が弱まり、サービス業への依存度が高まると、銀行業の果たす機能そのものが製造業全盛時代ほど高く評価されなくなることを示しています。

ユーロ圏諸国の中で、イタリアはドイツより脱製造業化が進んでいる国です。あるいは、製造業化が遅れていた国だと言ってもいいでしょう。そこでも銀行業の見通しが暗いのは、そもそもサービス業優位の経済で銀行や金融業界の果たす役割は、製造業主体の経済の時代より低下することを示唆しています。

というわけで、製造業と、製造業の設備投資資金調達のための機関としての金融業の役割が低下し、金融業をのぞくサービス業の役割が高まる時代への転換がすでに始まっています。どちらがスムーズにこの移行を達成できるかということになれば、ドイツよりイタリアでしょう。

しかし、転換期においては、製造業の基盤も弱く、金融業の寡占化も遅れているイタリアは、ドイツより苦労するでしょう。そのイタリア国債10年物の金利が、直近では1.5%を下回る低さになっています。

これは明らかに、ドイツや日本などでの長期国債までもがマイナス金利になるという極端な低金利環境に引きずられて起きた現象と思われます。今後、サービス業主導の経済が確立するまでの紆余曲折を考えると、イタリアの10年債が1%台前半の金利水準で取引されているという事実は、バブル以外の何ものでもないでしょう。国民経済全体の稼ぐ力が製造業全盛期より低下し、それにともなって自然利子率も下がっています。その結果として、確定利付き金融商品全般の利回りも延々約30年間にわたって低下してきたのです。

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