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ヨーロッパでは投機格付けの債券もマイナス金利に


ヨーロッパ諸国では、A債やトBBB債といった投資適格等級の債券利回りはほぼ全面的にマイナスとなっています。そして、BB債という機関投資家の長期保有にはふさわしくない、投機的な格付けの債券までゼロに限りなく接近しています。

こうした点からも、現在世界中で起きている債券利回りの低下は、決して好況下で好利回りの見込める投資対象が払底している。そのために、わずかな利回りでも投資家が積極的に債券を買っているから、ますます金利は下がり、債券価格は上がるという健全な利子率低下状況ではないことがわかります。

景気が良くて好利回りの投資対象がないから、低い利回りでも安全確実な債券を買うという投資行動が意味を持つのは、どんなに低くてもプラスの利回りが付いているときの話です。マイナス金利となると、無理して債券を買って持っているより、現金を持ったままのほうが効率はいいという議論になるはずです。なぜ、こんなに不自然な債券利回りの低下が起きるのでしょうか。

また、なぜ投資適格の債券の利回りがマイナスになることを容認し、投機的な格付けでもゼロに近い利回りしか稼げないという状態になっているのでしょう。それは、ユーロ圏諸国で融資額の総残高に対する不良債権の比率が非常に高まっているからです。

キプロスやギリシャの40%台後半というのは、極端なケースですが、スロベニアの20%、ポルトガル、イタリア、アイルランドの10%台後半というのも、融資残高に占める不良債権の比率としては、かなり高金利で貸し出していなければ大きな損失を見こまなければならない水準です。

融資残高に対する不良債権が高まり、金利収入が見こめないだけではなく、融資した元本の回収さえできないケースが多いという状態なのです。だとすれば、比較的小幅なマイナス金利となる債券を買うほうが、元本の回収ができない融資をするよりは損失が少なくて済むはずです。

中央銀行が金融機関に対する通貨供給量を増やすことによって、景気を回復させるという方針は、金融機関による融資の拡大や債券の購入がプラスの収益を生むからこそ成立する議論です。拡大した通貨供給がプラスの収益を生むどころか、元本の保全さえおぼつかない状態では、明らかに中央銀行による資金供給は景気回復に寄与しません。

2015年の春以降欧州中銀(ECB)の総資産が拡大するほどヨーロッパ諸国の株価は下落してきました。また、下段に眼を転ずると、同じく2015年の春以降、ECBの総資産が拡大するほど、ユーロ圏諸国のマクロ経済指標は悪化していたことがわかっています。

ECBのドラギ総裁は、「ECBの総資産拡大策が、ユーロ圏諸国の経済回復をより確かなものとした」、あるいは「もし、ECBが総資産拡大策を取らなければ、ユーロ圏のインフレ率はさらに低下していただろう」と述べています。このうち、ECBの総資産拡大がインフレ率を高めに保つことに貢献しているのは、事実でしょう。しかし、インフレ率を高めに維持したことは、ユーロ圏の株価の上昇にも、マクロ経済指標の向上にもまったく貢献していません。

ユーロ圏を代表するSTOXX600株価指数のパフォーマンスがアメリカを代表するSP500よりはるかに悪い理由を鮮明に示しています。

ユーロSTOXX600は、中段のSP500よりはるかにパフォーマンスが悪かったようです。しかし、これはSTOXXが割安すぎることも、SP500が割高すぎることも意味しません。むしろ、世界全体の株価指数の1株当たり利益とヨーロッパ諸国の株価指数の1株当たり利益の推移を見比べると、もともとSTOXX採用銘柄の1株利益の成長率が低かったし、直近ではこの成長率がマイナスに転落していることが、STOXX自体のパフォーマンスの悪さの最大の理由です。

採用銘柄の1株利益が増加しないからこそ、積極的な設備投資にも慎重になり、その結果ECBによる量的緩和やゼロ金利・マイナス金利という金融刺激の拡大が、経済成長率の向上に結び付かないのです。

ユーロ圏諸国よりもっと早くから積極的に量的緩和政策を取りながら、実質経済成長率の成長については、ユーロ圏よりさらに金融緩和の効果が少ない国があります。それは日本です。この間の量的緩和がいかに経済活性化に失敗してきたかは、ユーロ圏の銀行株の値動きと日本の銀行株の値動きを比較すると、ユーロ圏銀行株指数は、2015年夏の天井だった210前後から直近の135までで、約36%下がっていました。一方、日本に銀行株指数は、2015年夏の2200前後から直近の1350までで、約39%下がっています。

しかも、この間にユーロ圏ではドイツ銀行やイタリアの大手銀行モンテ・デイ・パスキ・デ・シエナ銀行のように、存亡の危機に立たされている大手銀行が話題になっている中での36%の下落です。一方、日本では今までのこところ大手銀行に存続の危機が訪れているという話はないのに、銀行株指数は39%下がっているのです。銀行業界全体を取り巻く環境は、日本のほうがユーロ圏よりさらに深刻だということがわかります。

ユーロ圏経済は、圏内でもっとも健全なドイツが今も製造業主体の経済を運営していることもあって、明白に製造業主体の経済からサービス業主体の経済への転換が難航しています。ジャブジャブの通貨供給量拡大で、景気回復を達成できるという間違った方針が、さらに経済全体の混迷を深めています。

日本政府や日銀もまた、通貨供給量の拡大が景気拡幅を促進するという間違った方針を採用しています。しかも、ユーロ圏各国政府や欧州中銀よりずっと長期にわたり、ずっと大きな規模でこの方針を推進しているのです。

日本は、製造業主体からサービス業主体の経済への転換自体はドイツよりうまくいっています。しかし、現在の安倍首相と日銀黒田総裁のやみくもな通貨供給量拡大・インフレ率加速の方針は、この経済全体の流れに逆らい、製造業の過剰な設備投資や、そこまで行き着かなければ金融市場の投機的な拡大に貢献するだけです。

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