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ヨーロッパから我先と逃げ出す投資家たち① ヨーロッパ全体


ドイツ連邦政府10年債の利回りを、去年6月から今年6月の1年にわたって追うと、今年11月上旬の約2.1%から、今年2月中旬の1.2%までの下落がとくに急激で大幅だったことがわかります。利幅で言えば0.9パーセンテージポイント下がっただけだという見方もできますが、すでに10年債としては非常に低い2.1%から出発して、1.2%に下がったのだから、3ヵ月強で約43%も下落してしまいました。

一方、あらゆる償還期限のドイツ連邦政府債の利回りを平均するとどうなるかを、1977~2016年の40年間で検証したグラフを見ると、世界各国共通していますが、国債流通残高の残存年限別シェアは10年以上の長期にわたるものより、数ヵ月からぜいぜい5年までの短期債のほうが多いようです。

平均すると7~8年ですが、当然、流通残高全体の平均利回りは10年債の利回りより低めに出てきます。しかし、このドイツ国債の場合、直近1年間では最低で0.0%、最高でも0.5%弱と極端に低くなっています。

ドイツ国債の平均利回りが昔から低かったわけではなく、1997~98年のアジア通貨危機・ロシア国債危機以前の時代には、ほぼ一貫して4%を上回っており、アメリカ連邦準備制度のボルカー議長による1980年代初頭のインフレ退治のための利上げに次ぐ利上げの余波を受けた1982~1983年には11%台に達していたこともありました。

しかし、インフレ退治のためには、投資・投機を抑制する必要がある。だから、市中金利・国債利回りを上げるとか、経済浮揚のためには、投資を活発化させる必要がある。だから、市中金利・国債利回りを下げるといった金融政策による経済活動の制御はほんとうに可能なのだろうかという疑問が湧いてきます。

過去2年半にわたるユーロ圏のインフレ率を見ると、2014年1月には0.8%だったものが、2015年1月にはマイナス0.6%まで下がり、2016年6月にはマイナス0.1%前後へとマイナス幅が縮小していました。

この間、欧州中銀はやっきになって金融市場からユーロ圏諸国の国債、社債、不動産証券化商品を買いあさり、直接市場にカネを注入する一方、金利はマイナスをふくむ極端な低水準にとどめていました。しかし、こうして欧州中銀からカネを受け取った銀行業界は、ほとんど企業への融資を増やさなかったようです。

つまり、もし理論的にはインフレ退治のために金利を上げ、経済活性化のために金利を下げるという方針が正しかったとしても、現実にはこの方針は少なくとも、利下げによる経済活性化」において機能不全を起こしているのです。さらに、この方針は理論的にも間違いであることを示唆する部分があります。

「金利を下げれば、設備投資のために借り入れをする企業にとって、同額の債務に対する利払いの負担が従来より軽減されるので、資金需要が拡大する」という部分は、たしかにそのとおりです。しかし、「資金を運用する側も、国債などで安全確実に運用していて収得できる金利収入が減少するので、社債の購入とか株の購入といった従来よりリスクの大きな運用対象に資金を移動させる」というのは、明らかに間違っています。この発想は、資金運用者は同じ国の中で、資金運用の対象を選ぶという、まったく非現実的な前提に立っているからです。

ヨーロッパ株で組成されたETFの資金流出入を描いたグラフを見ると、イギリスのEU離脱危機もドイツ銀行危機もなかった今年の3月以降、ほぼ一貫してヨーロッパ株から資金が流出していまhした。そして、ユーロSTOXX600株価指数と同銀行株指数の対比は、それよりさらに早く、2月には銀行株主導のヨーロッパ株の売り急ぎが起きていたことがわかります。

もし、投資家が運用する資金は1国内あるいは1通貨圏内にとどまるという議論が正しければ、当時のユーロ圏では圏内諸国の国債が買い進まれていたはずだということになります。そして、国債金利がどんどん低下していた(国債価格は上昇)という事実からは、一見この推測が正しいように思えます。

しかし、ユーロ圏の株式市場よりさらに早く、2014年の秋からユーロ建て債券市場からはさらに鮮明な資金逃避が起きていました。この間のユーロ圏諸国の国債金利低下(価格上昇)は、ほぼ全面的に欧州中銀による一手買いが支えていたのです。そして、個人・機関を問わず収益を追う投資家の資金はユーロ圏の株からも、債券からも逃げ出していました。

それは、現在も続いています。投資家一般がヨーロッパから逃げ出し、国際的な金融機関のファンドマネジャーたちは、ヨーロッパの株からも債券からも手を引いています。ヨーロッパ全体を覆う各国政府間の政策協調の不在、慢性的な超低金利、弱まりつづける銀行業界、一向に改善しない経済指標を見れば、当然すぎるほど当然の選択をしています。

ただ、これだけ歴然とヨーロッパのあらゆる種類の金融市場から資金が逃避しているとすれば、地球上のどこかに、その資金が流入している金融市場が存在しなければ、勘定が合わないことになります。

この資金の受け皿になっていたのは、比較的主要株価指数のパフォーマンスが良かったアメリカとアベノミクス期待が2014年中はなんとか化けの皮もはがれずに海外資金の受け皿となっていた日本、そして中国を代表とする新興国・資源国の金融市場でした。このうちで、今もまだなんとか好調を維持しているのはアメリカだけで、日本も新興国・資源国もすでに外資は流入から流出に転じています。

厳密にいうと、2015年にはすでにヨーロッパのあらゆる金融市場からの資金逃避が起きていたというのは、誇大表現となる。ヨーロッパ諸国の中でも、イギリスやオランダは、少なくとも不動産市場という実物経済と金融の両生類とでも言うべき市場では、つい最近まで好調が続いていました。

2015年第4四半期の時点で、パリ、ローマ、アテネの不動産価格は前年同期比でマイナスとなっていました。これとは対照的に、ロンドンとアムステルダムの不動産価格は前年同期比で2ケタの上昇を記録していました。

実体経済のファンダメンタルズで考えれば、ほとんど制約なく資金の移動が可能なEU圏の中で、なぜこれだけ不動産だけは個別都市によって大きなパフォーマンスの差が出るのかについては、正直なところよくわかっていません。

不動産アナリストの決まり文句は「不動産は土地も、いったん建ててしまった上物も移動させることができないから、同じ国の中でもちょっと経済環境の違う都市間では、価格変動パターンがまったく違う。だから、国境を越えた大都市同士の比較でも、同じような価格変動の差が出て当然だ」ということです。

しかし、これはよく考えてみると、実は間違っている常識なのです。同じ国の中での斜陽化しつつある製造業都市と金融センター都市とのあいだに価格変動パターンの違いがあるのは当然です。

ところが、各国の金融センター都市同士で、これほど価格変動パターンが違うのはやはり経済合理性では説明できないようです。この中でイタリアだけは、ローマが金融センター都市ではなく、ミラノ、トリノ、シエナのほうが、ローマより金融センター性が強いようです。

しかし、間違いなくパリはフランスの金融センターだし、アテネはギリシャの金融センターです。というわけで、明らかに先行きは悲惨になることがわかりきっているロンドンやアムステルダムで、今も不動産のミニバブルが膨らみつづけています。

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