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ドイツ銀行業界の危ない海外融資構造


2002~2003年のハイテク・バブル崩壊前にも新興国向け融資残高は1000億ユーロ(約10兆円)前後で、この金額は現在に至るもほとんど変わっていません。むしろ、やや減少したかもしれません。しかし、オフショアセンター向け融資は、ハイテク・バブル崩壊前は500億ドル(約5兆円)程度だったものが、直近では2500億ドル(約25兆円)を超える水準まで激増しています。

オフショアセンターに流れこむ資金は、税制の厳しい国に住む大富豪の節税目的での運用と、いわゆるオイルダラーが多いのですが、こういう資金が借金でレバレッジをかけて中国向けの金属・エネルギー資源生産設備の拡大投資をしていたりしたら、現状では目も当てられないほどの巨額損失となっている可能性が高いのです。

そして、ドイツの銀行業界でいちばん危なそうなのが、総資産が国内では断トツの首位で、世界的にも中国工商銀行、三菱UFJグループ、HSBC(香港上海銀行)に次いで第4位がドイツ銀行です。

ドイツ銀行のクレジット・デフォールト・スワップ(CDS)価格が、昨年末の100ベーシスポイント(1%)から、今年1月だけで160ベーシスまで急騰したことを告げています。また、ドイツ銀行が発行していた強制転換条項付き転換社債(略称COCO)の価格が、やはり今年の1月にイタリアのウニクレディトやスペインのバンコポプラール同様に急落したことを示しています。

強制転換条項付き転換社債とは、銀行が発行する転換社債で、発行体となった銀行の安全資本が国際決済銀行の基準を満たさなくなったりすると、自動的に株式に転換されてしまうタイプの投資家にとっては危険きわまりない社債です。

ふつうの転換社債なら株に転換したほうが得か、社債のまま持ち続けて金利を稼ぎながら償還期限が来たら元本を返済してもらうほうが得かを判断し、その判断にもとづいて転換するしないを決めるのは投資家です。

しかし、強制転換条項付き転換社債は、投資家が株に転換するのは損だと考えるようなときに、有無を言わさず株に転換されてしまうのです。こんなに危険な転換社債が堂々と流通していること自体が、全般的な低金利環境で確定利付き商品を投資対象としているファンドがいかに安定した収益の確保に苦労しているかを示しています。

それにしても、世界の銀行総資産ランキングで20位台半ばのウニクレディトやかろうじて90位台後半に滑りこんでいるバンコポプラール(プエルトリコ最大の銀行)がこうしたギャンブル性の高い資金調達に頼っているのはある意味で納得できます。しかし、第4位のドイツ銀行までこんな危ない橋を渡らざるを得ないのは、やはり巨額の損失計上の危機がかなり切迫している証拠です。

2008年のリーマンショックで破綻した大手投資銀行、リーマン・ブラザーズはアメリカの金融業界の中でも突出した規模のデリバティブを保有していました。アメリカの金融当局は、他の投資銀行の大部分、そして銀行間の信用創造システムにはかかわっていないので、「大きすぎて潰せない」と言いう理屈はこねようがないAIGという巨大保険会社まで大金をつぎこんで救済しました。にもかかわらず、リーマン・ブラザーズを見殺しにしたのはなぜかという点については、今でもさまざまな説が語られています。

しかし、単純で説得力があるのは、リーマンが抱えていたデリバティブの想定元本があまりにも巨額だったという説明でしょう。正直にリーマンがしょいこんでいた損失を全額引き受けていたら、アメリカ連邦政府の威信と、連邦準備制度のドル札を際限なく刷りまくる能力をもってしても、自分たちが確実に生き延びられるかどうかわからないということで、二の足を踏んだというのが真相らしいのです。今、ドイツ銀行の保有しているデリバティブの想定元本は、まさに破綻直前のリーマン・ブラザーズ並みの大きさになっています。

2008年のリーマンショック当時、ドイツ最大の銀行であるドイツ銀行もまた2007年初夏の125ユーロを上回る株価から、2009年初頭の大底では20ユーロを割りこむところまで暴落していました。そのころから、ドイツ銀行はヨーロッパ系の銀行グループの中で最大級のデリバティブを保有していて、あの金融危機を乗り越えられるかどうかが疑問視されていました。

しかし、ドイツ銀行はこの危機をなんとか乗り切り、金融危機後の戻り高値こそ約70ユーロと最高値の半分強にとどまりましたが、危ない資産ポートフォリオを安全な方向に再構築する時間的な余裕はあったはずです。こうした体質改善に取り組む意思があったとしたら、まっ先にすべきだったのは、金融の大量殺戮兵器と呼ばれるデリバティブの想定元本を圧縮することだったでしょう。

とにかく、アメリカのマネーサプライがGDPより若干少ない15兆ドル、世界全体のGDP総額が50兆ドル、そして世界中の債券・株式市場の時価総額が100兆ドルに過ぎません。それなのに、ドイツ銀行のデリバティブ想定元本は1500兆ドル(約15京円:京は兆の1万倍)に達しているのです。

このうちたった1%、つまり15兆ドル(約1500兆円)の支払いを迫られるだけでも、到底、一企業の自己資本はおろか、借り入れと見合いで持っている資産まで全部投げ出しても追いつかない金額となります。

にもかかわらず、ドイツ銀行はデリバティブへの露出度を圧縮する方向へのポートフォリオ改革をやらなかったようです。現在単一の金融グループとしては世界最大のデリバティブ想定元本を抱えこんでいます。

ドイツのGDP総額である2兆7000億ユーロ、(約308兆円)の20倍強の55兆6000億ユーロ(約6340兆円)ということになっています。しかし、これはちょっと古い数字で、金融業界内の最新の推計では70兆ドル(約61兆ユーロ、7000兆円)と言われています。

というわけで、今度金融の大量殺戮兵器の犠牲者が出るとすれば、ドイツ銀行ではないかと考える金融関係者も多いようです。しかし、アメリカの有力銀行グループも、デリバティブの想定元本の大きさでは、かなり危ないところが多く、シティグループは総資産1兆8000億ドルの29倍に当たる53兆ドル(5300兆円)、JPモルガン・チェースは総資産2兆4000億ドルの21倍に当たる51兆ドル(5100兆円)、ゴールドマン・サックスは総資産1兆ドル弱の50倍を超える51兆ドル(5100兆円)が3強を形成しています。

さすがに50兆ドルは超えないようですが、バンク・オブ・アメリカ=メリルリンチは総資産2兆1000億ドルの21倍の45兆ドル(4500兆円)、モルガン・スタンレーは総資産1兆ドル弱の31倍を超える31兆ドル(3100兆円)を持っています。

そして、業界では保守的な経営で定評のあるウェルス・ファーゴでさえ、総資産1兆7000億ドルの3.5倍に当たる6兆ドル(600兆円)も持っているのです。今年年初来の世界的な銀行株の不振は、世界の金融センターであるアメリカの大手銀行グループがいかに危ない会社ばかりかという事実を反映しているのかもしれません。

それではなぜ、ドイツ銀行はアメリカの大手投資銀行よりはるかに深刻な破綻危機に瀕していると言われるのでしょうか。ドイツ銀行そのものの危ない資産構成もさることながら、理由の一端はドイツという国がユーロという共通通貨を通じて抱えている問題の大きさにあります。

ドイツの場合、アメリカのようにヨーロッパ諸国の問題から超然としていられる立場にはいません。また、他国のことなど構っていられないイタリアとは違って、ギリシャというお荷物の面倒まで見なければならないという大問題も抱えています。

ドイツですでに納税された金額に対する未収・滞納税額がわずか2.3%なのに対し、ギリシャでは同じ比率が89.5%というとんでもなく高い水準に達していることを示しています。さらに、ギリシャ国民の個人家計の財源は、賃金給与が全体の32~37%台にとどまっているのに対し、年金は42%台から51~52%へと上昇していたことがわかります。

これほど政府支出に頼っていながら、これほど納税意識の低い国民経済をなんとか維持させようと支援するのは、世界一健全な経済圏でも至難の業だろう。そして、ドイツ自身がすでに世界でもっとも健全な経済とは言えなくなっています。

ユーロ圏諸国が偽善的なきれいごとを言わずに本音を吐き始めた背景には、ユーロという共通通貨の使用が完全な失敗に終わったという歴然たる事実も存在しています。それは、当初2年は決済計算上の仮想通貨として、その後は実際に流通する通貨としてユーロを遣い始めてから15年間のユーロ圏諸国の国際収支です。

「外国為替市場で自国通貨を操作する手段を奪われたユーロ圏諸国は、黒字国は内需拡大におもむき、赤字国は経済活動を活発化することによって、それぞれ国際収支をトントンにする方向に変わるだろう」という思惑は、ほぼ完全にはずれているようです。

ユーロ圏加入によって国際収支の累計赤字額が明白な減少に転じたのは、後にも先にも2011年1月1日に加入したエストニア1国だけです。キプロスとともに2007年に加入したマルタは、直近の4〜5年間は累計赤字が横ばいから縮小への動きを続けています。

しかし、2007~11年の赤字累計額を解消するほどの回復ではないようです。つまり、共通通貨で縛ることによって為替操作ができなくなれば、国際収支で強い国はますます強く、弱い国はますます弱くなるというだけのことです。

その中で、フランスだけはユーロ・バブルが起きていた初期は黒字でしたが、その後は赤字が累積しています。この事実によっても、フランスがユーロ圏内の負け組だったことが明らかになりつつあるようです。

ほぼ一貫して国際収支の黒字を拡大しているルクセンブルク、オランダ、ドイツ、オーストリアがユーロ圏の勝ち組だったかということになると、そこには大きな疑問が出てきます。これらの国にとってユーロは安すぎるので、本来国内の消費を豊かにすべき商品やサービスまでユーロが安いからこそ売れると国外に輸出されてしまっているのです。

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