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イタリア銀行業界の不良債権の急激な増加ぶり


イタリア、フランス、スペイン、ドイツの銀行業界が抱える不良債権の実額を比較したものが、2014年以降イタリア銀行業界の不良債権が突出して増えていることがわかります。また、イタリア銀行業界の不良債権額の総資産に対する比率ですが、こちらは2008年に6%というこれ自体先進国の銀行業界としてはかなり高い水準で底打ちして以降、2014年の17%強までほぼ直線的に伸び続けたことを示しています。それにしても総資産の17%が不良債権というのは、健全な債券の利回りがそうとう高くないと簡単に赤字経営に陥ってしまう状態です。

19世紀半ばまで、すなわちイギリス主導の世界の西欧化が進んでいた時代には、世界は「大国から人工国境で守られた超大国へ」という誇大妄想的な拡大志向に支配されてはいなませんでした。

ところが、19世紀後半から徐々に新興国、アメリカが世界の市場経済のリーダーシップを取るようになると、広い国土と膨大な人口を擁する超大国であることこそが、経済繁栄にとって必須の条件であるかのような風潮が蔓延し始めました。

20世紀、とりわけ第二次世界大戦後の世界では、人工国境国家以外は大国になれないという風潮が世界を覆いました。その中で、もともとヨーロッパでは弱者連合でしかありえない、主権を持った国家同士の連合によって、強大な人工国境帝国に対抗しようという、初めから失敗が約束された試みがヨーロッパ経済共同体(EEC)であり、ユーロッパ連合(EU)であり、ユーロという人工通貨を共通通貨としたユーロ圏の創設でした。

第二次世界大戦後のヨーロッパ史を一言で言うなら、言語、文化、伝統、歴史の差をいっさい捨象して、自分たちが生み出した鬼っ子である人工国境国家アメリカのヨーロッパ版をつくって、「超大国」全盛の世の中から落伍しないようにという努力の連続だったのです。

結局のところEUもユーロ圏も、この人工国境国家の形成に失敗しました。それを天下周知の事実として示したのが、イギリスが国民投票によってEUからの離脱を決定したことでした。

広い国土と膨大な人口がほぼ例外なく有利な人間的営為と言えば、まず戦争です。そして、世界市場に占めるアメリカという人工国家の地位が高まるにつれ、軍需産業における優位を確保するための重化学工業の大規模化が熱病とも言えるほどのペースで進行しました。この文脈の中では、ロシア帝国で起きた革命で成立したソビエト連邦も、大清帝国から中華民国を経て成立した中国も、人工国境国家アメリカの東欧・中央アジア版であり、東アジア版でした。

しかし、イギリスのEU離脱は、アメリカの母国であるイギリスが「ヨーロッパ統一人工国境国家の創出は幻想にすぎない」と烙印を押したのです。ソ連・東欧圏の崩壊とは比較もできないほど、世界経済覇権の本丸近くで起きた大変動です。だとすれば、現在ヨーロッパ株で組成されたファンドから資金がすさまじいペースで流出しているのは、当然の成り行きでしょう。

だからこそ、これまでのところイギリスで下落が著しいのは、不動産や不動産投信に限定されているのに対し、イギリスを除くEU・ユーロ圏諸国では、株式市場全体が暴落し、銀行業界一般に危機が広がっています。

同じような人工国境国家の崩壊に見える1980年代末のソ連・東欧圏崩壊は、しょせん周縁的な諸国での激動に過ぎませんでした。しかも、イデオロギー的に覇権国家アメリカとは正面から敵対する国家群の消滅・解体・変動でした。

EUもユーロ圏も惨めな失敗だったことが露呈しつつある今、ヨーロッパ各国をもっと小規模にブロック化することによって、ヨーロッパ全体の延命の道を探ろうという試行錯誤が始まりました。

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